患者様の病態分析

臨床報告とは

臨床報告とは、一つ一つの病態をどのように分析し、診断を下し、そのもとに、どのような治療を施し、その経過を示し、どのような結果になったかという報告です。

様々な分野の臨床報告を残すことによって、後世の臨床家の手引き・参考としてほしいと願っています。

治療家であれば、どのように治療して良いかという悩みは、誰しも同じようなところに行きつきます。難しい疾患になる程、どうしたらよいのか分からないことも多く、悩みも多くなります。鍼灸が医学として発展するためには、臨床家や、これから臨床を目指す鍼灸師が、このような壁に当たった時、本当に参考になる手引きがほしいと思うのは誰しもです。

私は中医学弁証を学び、中国の大学院で学んでいる勉強を学ぶ機会を得ました。中国の臨床例の多さは、日本と比べるととてつもなく多くあり、その臨床例が私の成長に大きく繋がりました。残念ながら日本には、参考となる臨床報告がほとんどなされていないのが現状です。

患者様の協力を得て臨床報告をあげていきますので、後世の臨床家たちの参考となれば幸いです。

[バトミントン肘]数ヵ月前から右肘が痛くなり、ラケットが振れません。

初診

初診  2018年4月4日 
50歳  女性 

主訴

右肘の疼痛

診断名

  • 上腕骨外側上顆炎(テニス肘、バトミントン肘)

随伴症状

  • 首・肩の凝り

現病歴

821013バトミントンを8年ほど続けています。数ヵ月前から右肘が痛くなり、ラケットが振れません。日常生活でも雑巾絞りや風呂桶の持ち上げなど、腕を捻る動作をすると痛みます。

整骨院に通い続けていましたが、改善されず、試合が近いので、とにかく早く治したいと思い、ネットで当院の事を知り、とても詳しく書かれていたので、治るのは鍼しかないと思い、来院しました。

現象

現代医学的な方法による病態の把握と、
中医学基礎理論を用いる中医学弁証による全身状態の把握

現代医学的な把握
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~下記の筋肉に強力な筋緊張を認める~

  • 長橈側手根伸筋(肘関節では弱い屈筋。腕を曲げた状態では弱い回内筋でもあり、腕を伸ばした状態では回外筋として働く。また手の背側屈曲と橈側変位を行う)
  • 短橈側手根伸筋(肘関節では弱い屈筋。手を尺側変位の状態から中間位へ戻し、手を背屈へ屈曲する)
  • 腕橈骨筋(腕を回内と回外の中間位へもたらす。この位置が屈筋として働く)
  • 総指伸筋(指を伸ばし、扇状に開く。手根の関節では背屈のための最も強大な筋。また手を尺側変位させる)
  • 小指伸筋(五指をのばし、手の背屈と尺側変位に協力的に働く)
  • 尺側手根伸筋(強力な外転筋である)
  • 回外筋(前腕を回外するが、上腕二頭筋と異なってどんな屈曲や伸展位になっても、前腕を回内する事ができる)
  • 長母指外転筋(この筋の位置的条件によって手を掌側へ屈曲、また橈側へ偏位させる。主な働きは拇指の外転である)
  • 円回内筋(前腕を回内し、肘関節の屈曲を助ける)

中医学による病態の把握
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    ~舌診~

  • 舌体 老舌
  • 舌色、紅舌
  • 舌苔、薄白苔、やや膩
  • 舌下静脈の怒張、あり
  • tongue out

    ~脈診~

  • 毎分、72 滑脈
  • ~臓腑弁証~

  • 特になし
  • ~気血津液弁証~

  • 痰湿証
  • 瘀血証

方解

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テニス歴8年である。筋力はこれまで順調に強化されてきた。しかし、上手くなるにしたがい、筋力(パワー)やスピードが必要である。また、技術の上達と共に肘関節、特に手関節の微妙な動きが行われるようになる。これまで8年やってきて、初めての大きな疼痛が起こった原因を、東西、両医学の視点から分析してみよう。

~現代医学的分析~

現代医学的な病態把握でさまざまな筋群に緊張が認められた。その中でも長、短橈側手根伸筋、腕橈骨筋、総指伸筋、小指伸筋、回外筋に大きな筋緊張が認められた。。

~この情報から判断できる事~

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これらの筋群は手の背屈や屈曲、手関節の橈側や尺側変位を行い、また前腕の回外を行う筋群である。
バトミントンを行う際、手関節の背屈や屈曲、尺側や橈側変位の微妙な動き、そして中間位から回外する時、力がかかったと判断できる。バトミントンは、なんと手関節の動きが繊細なのであろうか。

~中医学的分析~

中医学的分析においては、瘀血証であり湿証である。全身的な血流の流れが低下すると、身体の弱い部分ではもっと血液の流れが悪くなる。また、湿も弱い所に集まりやすい。湿は筋肉の伸び縮みを阻害する。

~結論~

技術の上達に伴い、前腕や手関節の複雑な動きが伴ってくる。また試合の中では想像し得ない状況に対応しなければならない。そのため過剰な筋や関節の負担を強いられ、疼痛が発生した。

治療方針

~全身的な視点から診た鍼灸治療~

☆瘀血及び湿証の改善☆

配穴

  • 太衝、合谷(全身の気血の流れを改善)
  • 太衝、合谷、足三里、三陰交、豊隆(全身の気血の流れを改善し、更に水分代謝を促進させる)

~局所的治療~

現代医学的な病態把握における筋群、その中でも特に現代医学的な分析による筋群をひとつひとつ丁寧に浅層から深層までほぐしていく。

治療経過

患者様のお声をそのまま記します

第1回目の治療

痛みの強さに変化はありますか?
今朝起きたら随分痛みが楽になっていました。痛みは半分になりました。
本日一番取りくんでほしい治療は何ですか?
昨日と同様でお願いします。

第2回目の治療

痛みの強さに変化はありますか?
今朝起きると、痛みが復活しました。
体調の変化はありますか?
良好
本日一番取りくんでほしい治療は何ですか?
通常通り。

第3回目の治療

痛みの強さに変化はありますか?
土…少し楽になりました。
日…痛みがまた出ました。
今朝…痛み、現状のまま維持
体調の変化はありますか?
良好

第4回目の治療

痛みの強さに変化はありますか?
随文楽になりました
体調の変化はありますか?
良好
本日一番取りくんでほしい治療は何ですか?
昨日と同様でお願いします。

第5回目の治療

痛みの強さに変化はありますか?
現状維持。良くもなく、悪くもなっていない。
体調の変化はありますか?
良好

第6回目の治療

痛みの強さに変化はありますか?
試合に出て、痛みが復活してしまった。先生に言われたとおりでした。元に戻ってしまったのでしょうか。
~私の回答~
元に戻った訳ではありません。炎症が起こっただけで、治ったところまで治っています。心配ありません

第7回目の治療

痛みの強さに変化はありますか?
随文楽になったが、時折痛い時がある。スコアで言うと、10→5くらいです。ラケットはまだ握れそうにありません。

第8回目の治療

痛みの強さに変化はありますか?
日に日にマシになっているが、ものを握って持ち上げる動作をすると痛みが出る。
本日一番取りくんでほしい治療は何ですか?
通常通り。

第9回目の治療

痛みの強さに変化はありますか?
大分楽になったが、時々痛い時がある。
体調の変化はありますか?
良好
本日一番取りくんでほしい治療は何ですか?
通常通り。

第10回目の治療

痛みの強さに変化はありますか?
痛みはほとんどなくなりました。スコアで言うと1か2。
全体的にだるい感じはあります。久しぶりにラケットを握りたいと思いました。
本日一番取りくんでほしい治療は何ですか?
通常通り。

第11回目の治療

痛みの強さに変化はありますか?
ほとんど痛みはありません。たまに違和感を感じる時はあります。スコアで言うと10→0.5くらいです。
本日一番取りくんでほしい治療は何ですか?
肘の仕上げ。左お尻下からふともも裏に前屈した時のみ痛みがあります。日常生活、スポーツ、全く支障を感じていません。
ふともも、回数を少なくしてほしい。

第12回目の治療

痛みの強さに変化はありますか?
痛みはスコアで言うと10→0.5です。たまにだるい時があります。まだ前屈した時、痛みがあります。お尻の上も痛い気がする。
本日一番取りくんでほしい治療は何ですか?
両方(肘、お尻上、太股)を診て欲しいです。

第13回目の治療

痛みの強さに変化はありますか?
痛みは0になりました。ありがとうございました。
来週から練習をスタートします。ラケットを振るのが楽しみです。
~私からのアドバイス~
肘の痛みが全くなくなってよかったですね。全ての筋肉をおさえていましたが、もう炎症も緊張もありません。練習をスタートしてもかまいません。最初の2,3回は身体の動きや筋肉を馴らすのを目的とし、これまでの80%とし、徐々にフルスイングまでアップしていってください。

~私からのアドバイス~

大腿二頭筋の痛みは、臀筋群の中殿筋、梨状筋、閉鎖筋、双子筋、内転筋群の筋緊張が関係しています。つまり、ハムストリングスと股関節を取り巻く外転筋群と内転筋群の微妙に関係しています。更に腸腰筋(骨盤のバランスをとる筋肉)が関与しているようです。
とても柔らかい身体で柔軟性がありますね。私から貴方に、これからは意識して体力・筋力・スピードをつけることをお願いし、下肢の痛みについては、微妙なバランスを当院で調整していきます。

~治療の終了~

これで治療を終了します。よく頑張って、遠いところを、しかも私の指示通りによく来て下さいました。予定通り良くなって私もとても嬉しいです。

~メンテについてのご相談~

2週間後にメンテナンスで一度診させてください。それで状態が良ければ1ヶ月か2ヶ月かのメンテナンスを行い、コンディションを良い状態にもっていきましょう。

悪いところがあっても痛くなるまで気付けないので、痛くなる前にメンテをすることはスポーツを長く続け、良いスポーツ人生を送る上でとても大切なことです。一流の選手ほどしっかりとメンテをしています。

私見

bensyou
8年間も長くバドミントンを続けて、よく頑張りましたね。柔軟でバランスの良い筋肉です。練習量も増え、これから試合の出場の機会も多くなりそうですね。しなやかな筋肉なので、これから体力、スピード、筋力をつけることをご提案します。これからまだまだ伸びますよ。

主婦業の傍らとはいえ、もうアスリートの仲間入りです。きちんとメンテをしながら健康で楽しいスポーツライフを送って下さい。予定通りに改善してくれたのは、一生懸命通ってくれたおかげです。私もとても嬉しく思っています。