患者様の病態分析

臨床報告とは

臨床報告とは、一つ一つの病態をどのように分析し、診断を下し、そのもとに、どのような治療を施し、その経過を示し、どのような結果になったかという報告です。

様々な分野の臨床報告を残すことによって、後世の臨床家の手引き・参考としてほしいと願っています。

治療家であれば、どのように治療して良いかという悩みは、誰しも同じようなところに行きつきます。難しい疾患になる程、どうしたらよいのか分からないことも多く、悩みも多くなります。鍼灸が医学として発展するためには、臨床家や、これから臨床を目指す鍼灸師が、このような壁に当たった時、本当に参考になる手引きがほしいと思うのは誰しもです。

私は中医学弁証を学び、中国の大学院で学んでいる勉強を学ぶ機会を得ました。中国の臨床例の多さは、日本と比べるととてつもなく多くあり、その臨床例が私の成長に大きく繋がりました。残念ながら日本には、参考となる臨床報告がほとんどなされていないのが現状です。

患者様の協力を得て臨床報告をあげていきますので、後世の臨床家たちの参考となれば幸いです。

[五十肩]ズボンを上げ・下げする動作で上腕に激痛がはしる ブラウスを着る時、激しい痛みが起こる

初診

2018年3月14日  
52歳 女性

主訴

ズボンを上げ・下げする動作で上腕に激痛がはしる
ブラウスを着る時、激しい痛みが起こる

診断名

  • 五十肩(肩関節周囲炎)

随伴症状

  • 肩が重い

現病歴

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五十肩になり、1年以上が経過しています。いつか治るだろうと思って辛抱しておりましたが、ズボンを上げたり下げたりする動作で、上腕に激痛が走ります。ブラウスを着る時も、上腕が激しく痛み、かなり苦痛です。かなりストレスになっております。
朝から夜まで家事と仕事をしているので、寝るのはいつも午前2時半くらいになります。
このまま放っておいても、段々悪くなるだけで良くならないと思い、ネットで調べて当院の記事がもっともわかりやすく、たくさん書かれていたので来院いたしました。

現象

現代医学的な方法による病態の把握と、
中医学基礎理論を用いる中医学弁証による全身状態の把握

現代医学的な把握
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  • 三角筋の筋の萎縮(特に前側繊維)
  • 外側上腕筋間中隔の窪みが硬くなり、屈筋群と伸筋群の境がなくなっている
  • 棘上筋、棘下筋の筋緊張、萎縮 著明
  • 外転挙上130度で激しい疼痛が起こり、それ以上挙上できない。外転挙上して腕を下に戻す時、110度~80度のところで激しい疼痛が起こる(有痛弧を認める)

    有痛弧とは

    有痛弧は肩峰下を腱板が通過するときに生じる痛みであり、一般的に肩関節60~120度の間で痛みを強く感じる。これは肩甲骨が痛みを回避するために上腕骨よりやや遅れて動くためである。
    上腕を外転する課程で、上腕骨と肩峰の間に腱板の一部や肩峰下滑液包などが挟み込まれ、繰り返して刺激が加わると滑液包に浮腫や弾力低下が起こる。

  • 頸部筋群、肩背筋群の筋緊張 著明
  • 腰部筋群の筋緊張を認める

中医学による病態の把握
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    ~舌診~

  • 舌体 老舌(ややしまっている)で少し動きが低下
  • 舌色、紅舌
  • 舌苔、膩苔で色は白いがやや煮詰まっている。痰濁内停(これは、水分の代謝が悪くなり、体内に水分が長く留まり、古くなって体内水分が粘り、汚れてやや熱せられていることを示す)。
  • 舌下静脈の怒張、著明(脈絡が網目状になっており怒張がある。このことは、体内の血流が慢性的に悪化していることを示す。)
  • tongue out

    ~脈診~

  • 毎分、60 濡脈
  • ~気血津液弁証~

  • 気滞証
    気の流れの停滞により、推動力が低下し、血液と体内水分の流れが悪くなり、それらの停滞を引き起こしている。
  • 痰湿証
    苔は厚くないがやや膩苔であり、舌はしまり、やや動きが悪く、苔が舌体内に入り込んでいる。
    それは濡れたタオルを絞ると水が出るのと同じで、古い水分が体内に停滞していることを示す。
  • 瘀血証
    身体内の血液の流れが悪化し、慢性化していると判断する。

方解

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慢性的な痰湿及び瘀血証です。夜寝るのが遅く、傷ついた筋繊維が修復されない状態です。
成長ホルモンは20歳を過ぎれば修復ホルモンとして午後10時~午前2時までの間に分泌され、午前12時がピークになると言われています。
1年以上経過しても悪化しているのは、体質と夜寝る時間が遅いことが関係しています。

治療方針

~全身的な視点から診た鍼灸治療~
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鍼治療により、全身の血流改善を行います。更に水分代謝を促進します。気の流れをスムースにして、五臓六腑の働きを高め、自然回復力を高めます。全身を巡る気・血・水の流れを良くすることで、局所の痛みである上腕部の改善を促進させます。緊張、萎縮した筋肉をひとつひとつ丁寧にほぐして行きます。全身の気・血・水の流れを改善するツボは以下の通りです。

合谷・太衝:気血の流れを改善
足三里・豊隆・三陰交:水分代謝を促進

ストレスを緩和し、全身の気・血・水の流れを改善し、自然回復力を高めることが部分である痛み、すなわち五十肩という症状を治す決め手なのです。

治療経過

患者様のお声をそのまま記します

第1回目の治療

痛みの強さに変化はありますか?
翌日、かなり痛い角度が減りました。日常動作が戻りました。
体調の変化はありますか?
肩の重い感じがやわらぎました。画期的な変化です。とても楽になりました。