患者様の病態分析

臨床報告とは

臨床報告とは、一つ一つの病態をどのように分析し、診断を下し、そのもとに、どのような治療を施し、その経過を示し、どのような結果になったかという報告です。

様々な分野の臨床報告を残すことによって、後世の臨床家の手引き・参考としてほしいと願っています。

治療家であれば、どのように治療して良いかという悩みは、誰しも同じようなところに行きつきます。難しい疾患になる程、どうしたらよいのか分からないことも多く、悩みも多くなります。鍼灸が医学として発展するためには、臨床家や、これから臨床を目指す鍼灸師が、このような壁に当たった時、本当に参考になる手引きがほしいと思うのは誰しもです。

私は中医学弁証を学び、中国の大学院で学んでいる勉強を学ぶ機会を得ました。中国の臨床例の多さは、日本と比べるととてつもなく多くあり、その臨床例が私の成長に大きく繋がりました。残念ながら日本には、参考となる臨床報告がほとんどなされていないのが現状です。

患者様の協力を得て臨床報告をあげていきますので、後世の臨床家たちの参考となれば幸いです。

五十肩 – 女性MHさん年齢63歳

患者様
大阪府伊丹市在住 女性 M.H.さん 年齢63歳

主訴

〇五十肩(1年以上前から痛く、今年の1月から右腕が90度の半分も上がらなくなり、何も出来ないくらい痛くなった。)

随伴症状

〇首がいつも痛い
〇肩こりがひどい(ここ15年は肩こりがひどい)
〇腰痛(10年来の腰痛持ち)
〇肘が痛む(内側と外側の両方が痛む)
〇不眠(よく目が覚める)

現病歴

katakori
去年の1月頃より右腕がチクチク痛み始めました。9月頃一番辛くなり、12月に入って少し楽になりましたが、1月に入ってまた辛くなって右腕が90度の半分くらいしか挙がらなくなりました。手を動かすと鋭い痛みが走り、寝るのも辛くなりました。頭を洗うのに手が届かず、左手だけで洗っておりました。

整形外科では、腱板が骨と骨の間に挟まれて狭くなっているのが原因だが、手術をするほどではないのでリハビリを続けなさいと言われました。整骨院に何度も通い、マッサージを続けましたが、このままでは腕が動かなくなってしまうと思い検索しました。五十肩に強い当院のことをインターネットで知って来院しました。

若い頃は肩こりなど知りませんでしたが、ここ15年は肩こりがひどく、首がいつもだるく痛みます。眠りが浅いのかよく目が覚めます。安定剤を飲むと5時間眠れますが、飲まないと1時、3時、4時と2、3回目が覚めます。看板の枠を作る仕事を長いことしていたので、右肘がだるくとても痛みます。内側も外側も痛くなり、上腕部に及びます。

10年来の腰痛持ちで、肉体的な仕事を続けてきたので、寝返りを打ったり、立つ時にすぐに立てません。

現象

〇右上腕が拘縮し、外転挙上40度で他動でも挙上することができない。
〇右三角筋、上肢帯筋の著明な筋萎縮を認める。
〇腰部の筋緊張著明。筋肉の弾性が弱く、筋力低下を認める。
〇頸部および肩背筋群の筋萎縮。
〇前腕の筋群の筋緊張著明。

原因の分析

発症より1年以上経って再び悪化し、右外転拘縮(外転角40度)を引き起こしている。通常、急性期、慢性期、回復期と四ヶ月ごとに変化し1年で自然に快復する。五十肩には勢いがあり、波がある。また個人差が大きい。軽症化で済むケースと重症化してしまうケースに別れる。その原因は個々の体質にある。新陳代謝が関係しており、代謝が悪くなっている人は重症化し長引くケースが多い。

本件は発症から1年以上経っての重症化であるので、体質及び肉体疲労、精神疲労などの生活習慣が、大いに影響している。全身の筋肉の緊張疲労がそれを物語っている。

以下に五十肩の原因の一つに挙げられる肩峰下滑液包の機能低下について参考までに述べておく。しかし、あくまで一原因にしかすぎない。

肩峰下滑液包にインピンジメント(挟み込み)が起こると、肩峰下滑液包に保護されていた棘上筋にもインピンジメントが起こる。肩峰下滑液包そのものや棘上筋をはじめとする回旋筋の腱板が骨と骨に挟まれた状態になって、上腕が挙がらなくなる現象が起こります。

※肩峰下滑液包(肩関節のクッションとしての役割を果たしています。)
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治療方針

illust423840度で外転拘縮を起こしているので、このまましばらく挙がらない日月が続いてもおかしくないケースである。しかもその期間は四ヶ月であるか六ヶ月であるか、いつになるか予想できない。

うつ伏せになり三角筋、上肢帯筋、肩背筋群を全部鍼灸治療で緩めて、その後横向きになり、導通鍼を用いて挙上を試みる。1日も早く90度以上挙上できることを目指す。拘縮の期間が長いほど固まってしまい、改善に期間がかかるからだ。

腰部の筋肉も緩めて、腰、背中、首、肩、上腕は1枚皮で繋がっているので、全てを緩めることで挙上の可能性を高める。肩関節の上腕の挙上を妨げる全てのものを総合して取り除いていく。

経過

neru_woman1回の治療で外転挙上100度。90度を上回ることができた。5回で130度、現在9回で150度を超して挙上できるようになった。この時点で拘縮は完全に免れた。以後、180度挙上を目指して最短期間になるようにする。

首、肩、腰が楽になり、よく眠れるようになった。眠れると改善が早い。自然回復力が上がってくる。肘の治療も開始した。新陳代謝を促進し、免疫力を高める治療を加えていく。

私の考え方

通常五十肩は急性期、慢性期、回復期があり、それぞれ四ヶ月ごと、1年で自然回復する。しかし五十肩には勢いがあり、波がある。個人差が大きい。重症化するケースでは4ヶ月から6ヶ月経っても強い勢いを持っている。

固まろう、固まろうとする力が働き続け、だんだん挙上が制限され、90度以下で固定されると拘縮し、快復時間がかかる。しかも期間を4ヶ月とも1年とも予測することができない。逆に言えば拘縮すれば1年2年3年と続く五十肩もあるのだ。

私はそれまで3年が最長と思っていたが、4年というのを一症例で出くわした。以来、拘縮を恐れている。それなのに来院する患者様は4ヶ月から6ヶ月以上経った人ばかしで、拘縮寸前の人が多い。

どこにいっても治らないと言うか、双方が全力で治そうとしないと治らないのに、治療者側もそのことを知らないのか告げていないケースが多い。「あちこち色々通ったのに治りませんでした。」と言う方は大概当院に来れば順調に改善していくので喜ばれる。一生懸命通っているのに、適切な治療を受けられなかっただけだからだ。

五十肩の勢いが強く、重症化するのは患者様の体質にも問題がある。双方が互いに一生懸命取り組んで初めてよい結果が生まれる。痛くなってすぐ鍼灸治療に来てくれたケースでは当院では4ヶ月以上かかった例はこれまでにはない。