患者様の病態分析

臨床報告とは

臨床報告とは、一つ一つの病態をどのように分析し、診断を下し、そのもとに、どのような治療を施し、その経過を示し、どのような結果になったかという報告です。

様々な分野の臨床報告を残すことによって、後世の臨床家の手引き・参考としてほしいと願っています。

治療家であれば、どのように治療して良いかという悩みは、誰しも同じようなところに行きつきます。難しい疾患になる程、どうしたらよいのか分からないことも多く、悩みも多くなります。鍼灸が医学として発展するためには、臨床家や、これから臨床を目指す鍼灸師が、このような壁に当たった時、本当に参考になる手引きがほしいと思うのは誰しもです。

私は中医学弁証を学び、中国の大学院で学んでいる勉強を学ぶ機会を得ました。中国の臨床例の多さは、日本と比べるととてつもなく多くあり、その臨床例が私の成長に大きく繋がりました。残念ながら日本には、参考となる臨床報告がほとんどなされていないのが現状です。

患者様の協力を得て臨床報告をあげていきますので、後世の臨床家たちの参考となれば幸いです。

[五十肩]突然肩がずっと痛くて夜がなかなか眠れない状態(49歳 女性 保育士)

6月初めより、突然肩がずっと痛くて夜がなかなか眠れない状態が続いています。
こけたりうったりした覚えはありません。整形外科へ2回、整骨院へ4回通いました。
1ヶ月前は肩がもっと上がっていましたが、そのときにもっと通院しておいた方がよかったのでしょうか。
とりあえず痛みが酷くなってペインクリニックに行き、注射をうってもらいました。その夜は3時頃まで眠れました。
あまりにも痛いので、再度ペインクリニックへ行きましたが、ネットで当院のことを調べて、7月31日に来院しました。

現象

右水平外転挙上70度(手を身体に平衡に真横に上げた角度)
右垂直外転挙上80度(手を身体の前に向かって平衡に上げた角度)
肩背部・首・上肢帯筋の筋緊張著明
腰の筋緊張著明
右肩関節の90度内完全拘縮(右肩の関節が固まって、他人が手伝っても90度以下しか全く動かない状態)

舌診

tongue out・淡紅舌胖大
・歯根あり
・口を開けると水がたれる
・水分多い(体内に古い水が溜まり停滞し、体内水分の代謝が悪いことを示している)
・舌下静脈の怒張著明(体内で全身の血液の流れが悪いことを示している)

脈診:濡脈

脈でも水分が停滞していることを示している。

傷病分析

突然痛みが始まっていること
レントゲンで異常がないこと
こけたりうったりしていないこと
年令が50歳
以上より五十肩と判断する。

bensyou本日、電話をいただいて来院された方だが、その時肩が水平90度以上、挙がりますかと質問したときに、はい、なんとか挙がりますと答えられた。

実際の徒手検査では、水平・垂直外転共に80度以上挙がらなかった。2ヶ月で完全拘縮を起こしている。一般的に拘縮は、早いもので3~4ヶ月で拘縮に至るケースもあります。しかし、2ヶ月で拘縮に至るのは、経験上最速である。

エネルギーの本質

ご本人には自覚がなかったようだが、もっと以前より痛みが始まっていたのかも知れない。筋肉の求心性萎縮のスピードが異常に早く、その分五十肩のもつエネルギーがとても大きかった事を示す。このエネルギーの本質は、体質である。

体内の血流

舌脈診より、病邪は瘀血(おけつ)及び水質である。血瘀(けつお)とは体内の血流が悪い状態を示している。胖大舌は体内水分の停滞を指名している。全身の血流が悪い、古い水分が停滞し、代謝が悪い。この両方の体質が、五十肩の早期の拘縮を引き起こした。
停滞した水分は、筋肉の中にとどまり、部分の血流をより悪化させる。そして、このケースは上腕の筋肉の伸縮力を著しく低下させ、関節の動きをはばんでいった。

治療方針

illust4238拘縮を取り除くために、全力を注ぐ。拘縮を改善するためにはどんなに少なくとも10回は鍼治療が必要である。
今回は非常に五十肩の勢いが強く、関節が完全に固まってしまっているため、13回を目標に90度以上挙上出来るようにする。
しかし、まずは痛みを取り除き、眠れるようにすることが第一である。拘縮を取り除くための治療は、全筋肉をゆるめていくので、筋肉がゆるめば血液の流れも良くなり、痛みもやわらぐ。
夜中に痛むのは、寝て血流が遅くなっている状態の上に、体質として血瘀(血流が悪い)の状態になっているからである。痛むことで肩を動かすことを促し、血流を改善する自然回復の働きであり、これ以上悪くさせないために身体が自然に行っていることである。
通ぜざらば痛み、通じれば痛まず、である。
痛みは血流が悪い事を改善することを教えている。
治療方針は、全身の血流改善及び水質(停滞した体内水分)の改善である。上肢帯筋及び頸部及び肩背筋群の筋緊張を丁寧に取り除いて行く。上背部の緊張を取り除くために、腰部の緊張も取り除いていく。
最後に導通鍼を行い、脳からβインドルフィンを導出する。βインドルフィンは脳内モルヒネと言われているホルモンで、とても強い鎮痛作用がある。脳から導出できるので、副作用もない。とりあえず痛みを緩和し、眠れるようになるために、4~6回を目標とする。

私見

_MG_1102五十肩はエネルギーをもっている。求心性に筋肉を萎縮させるエネルギーだ。まさに台風の目のように大きなエネルギーをもっており、一人一人大きさが異なる。とどまる期間は数ヵ月から1年、平均1年であるが、2、3年とどまる場合もある。
その過程でもっとも注意しなければならないのは、拘縮である。一旦拘縮を起こしてしまうと、その拘縮を改善するために回復期間がとても長引くからだ。ほおっておくと拘縮は、一年以上改善されないケースが多い。治療をしても数ヵ月かかり、治療期間のロスが生じる。

今回のケースは拘縮までの期間が2ヶ月で、超早いケース。肩が動くときにもっと通院していれば良かったのかという質問があったが、通院しなければならず、また診る法も絶対に通院を促さなければならない。勢いが強いほど、集中治療が必要で有る。私はこのようなケースに何度も遭遇しているが、拘縮を引き起こすことは、診る人が診れば予測できることであり、患者様にしっかりとその旨を伝えなければいけない。改善までかなり大変な努力が入るので、患者様自身が意欲的に改善するひつようがある。一緒に治療を進めて始めて、順調な改善が期待できる。

また本日の例からも分かるように、ご本人はまだ拘縮を起こしていると全く思っていないのは、普段の姿勢では腕だけではなく、身体を曲げて手を上げるので、実際より挙がっているように感じるようである。
五十肩の患者様がひっきりなしに来院するが、拘縮を起こす前に、来るか来ないかで、治療期間が大きく異なる。90度以上上がる状態でご相談いただきたい。
とことん固まるまでおいておくのではなく、違和感を感じたときに必ず電話でご相談ください。