患者様の病態分析

臨床報告とは

臨床報告とは、一つ一つの病態をどのように分析し、診断を下し、そのもとに、どのような治療を施し、その経過を示し、どのような結果になったかという報告です。

様々な分野の臨床報告を残すことによって、後世の臨床家の手引き・参考としてほしいと願っています。

治療家であれば、どのように治療して良いかという悩みは、誰しも同じようなところに行きつきます。難しい疾患になる程、どうしたらよいのか分からないことも多く、悩みも多くなります。鍼灸が医学として発展するためには、臨床家や、これから臨床を目指す鍼灸師が、このような壁に当たった時、本当に参考になる手引きがほしいと思うのは誰しもです。

私は中医学弁証を学び、中国の大学院で学んでいる勉強を学ぶ機会を得ました。中国の臨床例の多さは、日本と比べるととてつもなく多くあり、その臨床例が私の成長に大きく繋がりました。残念ながら日本には、参考となる臨床報告がほとんどなされていないのが現状です。

患者様の協力を得て臨床報告をあげていきますので、後世の臨床家たちの参考となれば幸いです。

右の歯が痛みと噛み合わせの違和感があります。

初診

2018年4月9日
42歳 女性 

主訴

  • 右上の前歯から奥歯の痛み(歯もしくは歯茎の痛み)
  • 噛み合わせの違和感(右前歯の上下がふとした時にガチッと当たるなど、右側全体の歯同士の当たりが強いように感じ痛む)
  • 下顎を前方に出す時に真っ直ぐに出ない(上下の歯をつけた状態の時)
  • 枕の高さ、湯船の中で首の圧迫ぐあいで下顎・下前歯の圧迫や鈍痛あり

診断名

  • 免疫力低下による疾患
    (肉体疲労、及び精神疲労が身体の一番弱い所にもたらした疾病と定義する)

随伴症状

  • 食いしばり
  • 両親の死の悲しみとストレス
  • 看病中のストレス
  • 左向きで寝るクセ
  • 便秘
  • 内臓機能、消化機能の低下
  • 血糖値がやや高め

現病歴

hansei_koukai_woman
2012年6月から2016年12月、父と母の看病および続いて両親を失ったので、看病疲れと悲しみでいっぱいでした。その後、一年半前くらいから、ストレスや精神疲労や肉体疲労からか、体調を崩しがちです。夜寝ても安眠できず、食いしばりがあるためか、歯・顎・歯周辺の痛み、噛み合わせの違和感が強くあり、現在まで続いています。
症状は以下のようなものです。

右の歯が痛みます。

右下奥歯から3番目の歯に当たるようになり、噛み合わせの違和感があります。右前歯2~4番あたりが当たりが強くなり、特に2番目が痛みます。三田市の歯科医院の顎関節医に診てもらいマウスピースや内服薬を頂きましたが、改善しませんでした。
現在も歯の痛みは続いており、右上の前歯から奥歯に痛みがあり、食後に痛む事が多いです。

噛み合わせの違和感があります。

右前歯の上下がふとした時にガチッと当たるなど、右側全体の歯同士の当たりが強いように感じ、それにより痛みます。

上下の歯をつけた状態で、下顎を前方に出す時に、真っ直ぐに出せません。

512976大阪の大学病院に行きましたが、これらの痛みの原因は不明と診断されました。その後、神戸の大学病院で、2017年6月、右耳下腺良性腫瘍摘出手術を行いました。歯の痛みは改善されませんでしたが、手術については経過観察中です。
2017年11月、同じ神戸の大学病院の口腔外科で、上の右前歯2番に異物ありと新参され、それが痛みの原因かどうか分からないということでしたが、取りあえず異物を取り除く小手術を行いました。それでも痛みは改善されませんでした。

枕の高さによって痛みが出ます。

湯船の中の首の圧迫ぐあいで下顎・下前歯の内側に圧痛や鈍痛があります。

2017年10月頃より。アロマ、ヨガなどを始めた事により、ようやくストレスを解放する機会が増えてきました。

現象

現代医学的な方法による病態の把握と、
中医学基礎理論を用いる中医学弁証による全身状態の把握

現代医学的な把握
byoutai02

  • 顎関節の右下顎枝が少し下がり、顎関節が右から左側に少しの歪みあり。
  • 口を開けると、右顎関節が先に動き出すが、最大開口すると右関節が少し遅れて前に出る。(顎関節の動きを診る触診にて)
  • 上下の歯を合わせたままで、下顎を出すと、顎の出し初めは下顎が患者様の右側に傾いて移動し、前に大きく突き出すと正面にもどる。下顎がZ状に動く
    そのまま口を大きく開けても、真っ直ぐに口を開くことができる。
  • 頸椎の2,3番目が右回旋。
    下記筋群に強い筋緊張を認める。
    ・頸部筋群
    ・肩背筋群
    ・壅肺筋群
    ・臀筋群

中医学による病態の把握
byoutai04

    ~舌診~

  • 舌体  やや膨れている
  • 舌色、紅舌
  • 舌苔、薄白膩苔 苔で被われて舌体が白く見える。
  • 舌下静脈の怒張あり。
  • 以上より、体内水分が余剰で長期の停滞を認める。気血の巡りが低下している。

    tongue out

    ~脈診~

  • 毎分、78  滑脈
  • ~臓腑弁証~

  • 肝気鬱滞
  • 水湿内停
  • ~気血津液弁証~

  • 気滞証
  • 痰湿証
  • 瘀血証

方解

byoutai09

両親の長期の看病、そして死を見送るにあたって精神疲労、肉体疲労、悲しみは想像に絶するものがあった。心身の疲労により、気・血・水の流れは悪化し、免疫力が低下していった。
五臓の生理機能も、肝・心・脾・肺・腎ともに低下していった。
顔面に痛みが現れているのは、精神疲労のために顔面の緊張が強いためである。咀嚼筋に強い緊張をもたらした。とくに内側外側翼突筋に影響を及ぼし顎を前に突き出す動作や咀嚼の動作で違和感や痛みを作り出した。
歯の痛みは、精神や肉体疲労の結果である。
一番弱い所に痛みが出ただけである。
精神と肉体疲労がもたらした産物である。
顎関節症も同じ原因である。

治療方針

~全身的な視点から診た鍼灸治療~

心身の疲労を改善し、免疫力を高めれば、痛みは改善される。
ただ、心身が回復するまで時間がかかるので、その間、歯の痛みから離れることである。
身体に良い事の全てを積極的に生活のなかで行えば、身体の免疫力や自然回復力は必ず高まってゆく。部分の痛みにとらわれず、身体自身がもつ自然回復力を最大限に引き出す事が痛みから解放される最良の方法である。
カウンセリングと鍼灸治療を通して、改善をはかる。

本日の身体の状態をおうかがいします

今回一番診て欲しい症状、お困りの症状は何ですか?
歯、歯茎の痛み。噛み合わせの違和感。
顎のズレがあれば、治したい。
痛みの状態や程度、期間、日常生活の不都合、精神的苦痛などをできるだけ詳しくお聞かせ下さい。
1年半ぐらい前から、くいしばりによる顎、歯周辺の痛み。
噛み合わせの違和感。(食後に特に痛む)
今までくつろげていた体勢でくつろげない。
精神的苦痛は、以前はかなりあったが、今は受け入れて日々、ヨガ、アロマを実践。日々、楽しもうと心がけています。
その他にお困りの症状があれば、すべてお書き下さい。
便秘、血糖値高め、内臓機能・消化機能を向上させたい。
現在行なっている治療や服用している薬、また既往歴などがありましたら、お聞かせ下さい。
耳下腺良性腫瘍、手術後経過観察中。
血糖値、経過観察中。(服用は現在なし)
当院をどのようにお知りになりましたか?
ヨガでご一緒になった方からお聞きしてきました。

治療経過

患者様のお声をそのまま記します

第1回目の治療

痛みの強さに変化はありますか?
左ほおの辺りが腫れて、痛みあり。左首も辺りも少し痛みが出た。
治療を受けた日は、食事の時、口が開けづらく、痛かった。

今日の状態は、うがいをするとき、左奥歯をみがくとき、あくびのとき、少し痛む。

体調の変化はありますか?
先週末からハードスケジュールだったので、身体が疲れている。治療前に頻繁にトイレ(小便)にいっていたが、ピタリとやんだ。トイレの回数が減った。
本日一番取りくんでほしい治療は何ですか?
顎に痛みがあるので、無理ない程度で身体の免疫をあげて欲しい。

第2回目の治療

痛みの強さに変化はありますか?
今は特に痛まない。
体調の変化はありますか?
休養したので、体調は良い。
本日一番取りくんでほしい治療は何ですか?
顎の緊張を緩めてほしい。
その他のご希望があれば、自由にお書き下さい。
身体全体を整えてほしい。

第3回目の治療

痛みの強さに変化はありますか?
歯:変化は特になし。ぐっすり眠れた翌日は、痛みのない日もあった。食後、痛い日もあった。
顎:痛みなし
体調の変化はありますか?
体調は良い方だと思います。昨日は身体が冷えて、今朝は便が緩かった。(寒い中で長い間いたので)
本日一番取りくんでほしい治療は何ですか?
顎、全身。
脾(本を貸して頂いて気になりました。)

第4回目の治療

痛みの強さに変化はありますか?
歯:痛い日と痛くない日あり。
顎:痛みなし。
体調の変化はありますか?
冷えは解消したように思いますが、1週間くらい便秘。
右耳下腺下辺りのむくみがひいたように思います。
本日一番取りくんでほしい治療は何ですか?
顎の緊張をとってほしい。
便秘解消の為の胃腸の働きを良くしたい。

第5回目の治療

痛みの強さに変化はありますか?
変化は特になし。
歯:痛む時と痛くない時あり。
顎:痛みなし。
体調の変化はありますか?
便秘解消。
本日一番取りくんでほしい治療は何ですか?
顎のズレ、身体の緊張を緩める。
身体をあたためる。

第6回目の治療

痛みの強さに変化はありますか?
ゆっくりと休養した後は、痛みを感じませんでした。
本日一番取りくんでほしい治療は何ですか?
顎、全身の緊張を取ってほしい。頭も凝っていたらツボを押してほしいです。前にして頂いたのが、気持ちよかったです。
その他ご希望があれば、自由にお書き下さい。
女性ホルモンも整えば嬉しいです。

公開日:2018年5月23日 更新日:2018年11月5日 ©