患者様の病態分析

臨床報告とは

臨床報告とは、一つ一つの病態をどのように分析し、診断を下し、そのもとに、どのような治療を施し、その経過を示し、どのような結果になったかという報告です。

様々な分野の臨床報告を残すことによって、後世の臨床家の手引き・参考としてほしいと願っています。

治療家であれば、どのように治療して良いかという悩みは、誰しも同じようなところに行きつきます。難しい疾患になる程、どうしたらよいのか分からないことも多く、悩みも多くなります。鍼灸が医学として発展するためには、臨床家や、これから臨床を目指す鍼灸師が、このような壁に当たった時、本当に参考になる手引きがほしいと思うのは誰しもです。

私は中医学弁証を学び、中国の大学院で学んでいる勉強を学ぶ機会を得ました。中国の臨床例の多さは、日本と比べるととてつもなく多くあり、その臨床例が私の成長に大きく繋がりました。残念ながら日本には、参考となる臨床報告がほとんどなされていないのが現状です。

患者様の協力を得て臨床報告をあげていきますので、後世の臨床家たちの参考となれば幸いです。

四十肩・上腕から肘にかけて神経痛の様な痛み – 男性 N.H.さん 年齢45歳

患者様
大阪府豊中市在住 男性 N.H.さん 年齢45歳

主訴

〇上腕から肘にかけて神経痛の様な痛みが起こる(胸郭出口症候群)
〇四十肩

随伴症状

〇首、肩の凝り
〇背中の痛み
〇肩甲骨の痛み

現病歴

auto-IzxQnI数ヶ月前から、首が凝っていると思っていましたが、痛みはありませんでした。

2週間前、朝起きた時、突然首が激しく痛み、起きられませんでした。寝ているときに寝違えたのかなあと思って横になってじっとしていました。横になっていたら数日で治りました。しかしその後、痛みが腕にきました。

右上腕から肘にかけて、我慢できないぐらいジーンとする痛みが走り、立っていると何をしても痛みました。痛み止めの飲み薬も湿布も全く効かず、何も用事ができずに途方に暮れていました。右肩を上にして横になると少しましになりましたが、起きるとじっとしていられないくらい、痛くなりました。

6ヶ月前に右肩を下にして寝たら上腕の同じところが痛んでいました。肩を上げると違和感が有るので四十肩かなと思っていました。右肩を下にして寝ると目が覚めます。両親とも病気療養中なので家事、看病の全てを一人でやっております。

一刻も早く痛みから逃れて仕事ができるようになりたいです。なんとしても治さないといけないという思いで、ネットで調べて、当院を見つけ来院致しました。

現象

〇首を右に回すと、右首・肩が痛む。首を右に傾けると、右首・肩が痛む。
〇右上腕外転170度
〇激しい首肩、背中の筋緊張
〇首の横(胸鎖乳突筋)から前部の筋群(斜角筋)にかけて、奥深く、幅広く筋緊張を認める。首、肩(僧帽筋、及び肩甲挙筋)から左右背中(菱形筋)にかけて、強い筋緊張を認める。さらに、右肩甲骨(上肢帯筋)、右三角筋の筋萎縮を認める。

舌脈診

舌診

舌体:老、胖大
舌体色:紅絳舌
湿:薄白苔・やや膩
舌下静脈:怒張あり

原因の分析

肩こり首の横(胸鎖乳突筋)から前部の筋群(斜角筋)にかけて、奥深く、幅広く筋緊張を認める。首、肩(僧帽筋、及び肩甲挙筋)から左右背中(菱形筋)にかけて、強い筋緊張を認める。さらに、右肩甲骨(上肢帯筋)、右三角筋の筋萎縮を認める。

上記の中でも、頸部の横から前、及び胸部にかけての筋緊張が一番深く、強い筋緊張が認められる。頸部より上肢にかけて出る神経がその部位で圧迫されており、上肢から肘への神経痛が引き起こされており、いわゆる胸郭出口症候群による痛みと判断できる。

そのため、上腕から肘にかけてじっとして我慢できないようなするどい痛み、すなわち神経痛が引き起こされている。

上腕の外転角は170度で、軽度の可動域に障害が認められるが、上腕から肘への痛みは、四十肩による関与は認められない。残存する障害を取り除き、日常生活で支障がないようにする。

治療方針

胸鎖乳突筋及び斜角筋群の奥深く広範囲に及ぶ筋緊張、筋萎縮を鍼灸治療によって改善していく。深さに応じて、鍼を使い分け、手技を施す。手技は丁寧に、一鍼一鍼突起を得、心地よい響きを与えていく。

そうすれば、筋肉は鍼の響きに反応し、即座に緊張は改善する。さらに、置針をして、緊張の改善に努める。筋肉は幅広く、深く、まるで粘土のように固く緊張しており、首の筋群の血流は相当長く障害されて、現在の症状をもたらしたと考えられるからだ。

首だけでなく、肩や背中の筋群も一鍼一鍼丁寧にほぐしていく。身体は数珠のように繋がっており、全体を総合的に治すことで、部分の早期改善につとめる。

経過

第1回目

治療後痛みがましになったが、夜に再び痛くなった。

第2回目

痛みは少しましだが、かなり痛い

第3回目

痛みは少しましだが、かなり痛い

第4回目

痛みが少しまし
痛む感覚が長くなる

第5回目

痛みが特定の動作に限定

第6回目

かなりまし、少し動ける

第7回目

家の仕事が少しずつできるぐらい回復

第8回目

バイクに乗るときだけ痛い
最初とは天地の差がある

第9回目

昨日は非常に楽でした。
今までは握りつぶすような痛みで我慢できなかったのが、昨日はただの筋肉痛のような感じで、とても楽にすごせ、たいがいの事ができました。
バイクで15分20分、信号待ちのたびに腕を振ったり回したりしないと耐えられなかったのが、何も痛くなかったのでうれしかった。

私の考え方

mi6iR根を大きく張った大木のように首の筋肉の奥深くまで幅広く凝りを呈していた。その凝りはさらに根を張り、肩、背中、上肢へと続いていた。首の横から前部の筋群にかけて、広く深い筋緊張が見られた。

今回の痛みは上肢から肘へかけてのじっとしてられないほどの痛みが一日中起こり、何日も続いているということであった。「痛い所と全然違うところに鍼を打って頂いて、楽になるのが不思議です。」と言われた。人間の身体は、数珠のように繋がっており、痛い部位が原因とは限らない。

さらに、痛みを引き起こす原因は、姿勢や食事、感情などの影響を受ける。姿勢が悪いと、負担が部分に偏る。食事の善し悪しは血液の質、及び筋肉の柔軟性に影響を及ぼす。不適な食事や過剰な感情刺激は血液を酸性化させ、筋肉を硬化させる。胃や腸、内臓の働きにも影響を及ぼす。内臓の働きは内臓体性反射により腹部や背中、首、肩の筋群、そして全身に影響を及ぼす。

そう考えると、根本的な原因に対して治療を施すことが大切であり、日常生活へのアドバイスも心がけ、再発の防止につとめたい。