患者様の病態分析

臨床報告とは

臨床報告とは、一つ一つの病態をどのように分析し、診断を下し、そのもとに、どのような治療を施し、その経過を示し、どのような結果になったかという報告です。

様々な分野の臨床報告を残すことによって、後世の臨床家の手引き・参考としてほしいと願っています。

治療家であれば、どのように治療して良いかという悩みは、誰しも同じようなところに行きつきます。難しい疾患になる程、どうしたらよいのか分からないことも多く、悩みも多くなります。鍼灸が医学として発展するためには、臨床家や、これから臨床を目指す鍼灸師が、このような壁に当たった時、本当に参考になる手引きがほしいと思うのは誰しもです。

私は中医学弁証を学び、中国の大学院で学んでいる勉強を学ぶ機会を得ました。中国の臨床例の多さは、日本と比べるととてつもなく多くあり、その臨床例が私の成長に大きく繋がりました。残念ながら日本には、参考となる臨床報告がほとんどなされていないのが現状です。

患者様の協力を得て臨床報告をあげていきますので、後世の臨床家たちの参考となれば幸いです。

野球の練習中で半月板を断裂し膝のロッキングを頻繁に起こすようになった症例

初診

2018年 5月9日 
17歳 男性

主訴

膝のロッキングを頻繁に起こす

診断名

  • 半月板損傷(断裂)

随伴症状

  • 大腿部及び下腿部の筋緊張

現病歴

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野球の練習中に準備運動としてランニングの後、ハードルを数回跳び、その着地の際に膝に激痛が走った。以後、運動中やふとした日常動作の中で、頻繁に膝が固まって動かなくなるようになった。

整形外科で半月板損傷と診断された。ロッキングを再々起こすということは、半月板の損傷は軽度ではなく、野球を続けるなら手術が必要だと言われました。

しかし、高校3年で大学をスポーツ推薦で進学を目指していますので、スカウトの時期でもあり、できれば、8月の試合が終わるまで手術をせずに、痛みを改善して野球ができるようになればと思いネットで調べて来院しました。

現象

現代医学的な方法による病態の把握と、
中医学基礎理論を用いる中医学弁証による全身状態の把握

現代医学的な把握
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以下の筋肉に強烈な筋緊張をみとめる。

  • 大腿前面筋群→大腿四頭筋
  • 大腿後面筋群→ハムストリングス
  • 下腿部前面筋群→前脛骨筋
  • 下腿部後面筋群→腓腹筋、ヒラメ筋、後脛骨筋

以上より、大腿部・下腿部の強烈な筋緊張を引き起こし、膝蓋骨に強烈な圧がかかり、膝関節の動きが悪化し、柔軟性も極度に落ちた状態になっている。

ロッキングを一日ふとした動作で4-6回起こし、予測できない。

運動中、野球の練習中の方が多い。

ロッキングを頻繁に起こすことは、半月板の損傷の証明となる。

どの程度の損傷かは、明らかではないが、軽度とは考えにくい。

中医学による病態の把握
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    ~舌診~

  • 舌体 老舌
  • 舌色、紅舌
  • 舌苔、薄白膩苔
  • 舌下静脈の怒張、有り
  • tongue out

    ~脈診~

  • 毎分60 脈状滑脈
  • ~臓腑弁証~

  • 特になし
  • ~気血津液弁証~

  • 気滞証
  • 痰湿証
  • 瘀血証

方解

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日頃の練習で、運動前には準備運動をするが、運動後の整理運動をほとんど実施していない状態で、激しい練習のため、疲労が溜まっていった。
そのため、大腿四頭筋をはじめとする、膝を支えるための筋群が全て緊張してしまった。膝蓋骨の動きも悪くなり、膝関節は弾力を無くし、柔軟性が重度に欠如していた。
普段より選手として筋力を鍛えていたが、鍛えすぎた筋力は硬さをまし、弾力を失う。むしろ、鍛えることによって筋力や柔軟性が低下してしまう。そのため、膝の関節の圧力を吸収できにくくなっている状態で、ハードルを跳んだので、半月板の損傷に繋がってしまった。

治療方針

~全身的な視点から診た鍼灸治療~

気・血・水の流れを改善

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局所治療は、現代医学的に病態把握で指摘した筋群を一つ一つ徹底的に緩めていく。特に、大腿前面、後面、下腿前面、後面の筋群の緊張を取って関節の圧を最大限軽減させる。
筋肉が柔軟になり、関節の負荷がゆるまったら、徹底的に筋力強化のためのリハビリを行う。
大腿四頭筋の運動を連続60回から始めて、100回に増やしていく。
それを一日4回以上行い。その後に、ストレッチしながら、軽く、筋肉を握り拳を軽く握って、1筋肉200回以上、叩きながら緩めていく。
運動後の整理運動としても、下肢の筋群の全てに行う。
叩くことで疲れが軽減するため、一日の疲れを残さず、筋肉を強化することに専念する。そのことで、柔軟で強い筋肉に生まれ変わる。
膝関節の負担を軽減することにより、ロッキングを起こさないようにする。

治療経過

第1-3回目の治療

普通に歩くことは出来るが、走ることができない。
たまにロッキングが起こる。
野球の練習で週に4-5回
日常生活で2―3回

第4回目の治療

筋肉が緩んだため、治療間隔を10-14日とする。

第5回目の治療

〇ロッキング
週に2―3回

第7回目の治療

〇ロッキング
ここ一週間で0回

私見

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最初の3回は、週に二回程度治療を行い、徹底的に筋肉を緩めた。
筋肉が緩まったので、第4回目より10-14日の治療間隔とする。
次の来院までに徹底的な柔軟とリハビリを指示した。

来院までに伝えた通り柔軟とリハビリを行ってくれた。筋肉に弾力性ができてきて、関節の負荷が軽減している。それは、ロッキングの回数から見ても明らかに分かった。ロッキングは4回から0回となり、起こらなくなった。
次回は次の試合前日に治療を行うことにした。

手術をしなくても、ロッキングを起こさないところまで、なんとかこぎつけた。
高校生という柔軟で強い筋肉をもっている時期で有り、また伝えたリハビリをしっかりやってくれたことが、改善の大きな要因となった。

公開日:2018年7月30日 更新日:2018年11月5日 ©