患者様の病態分析

臨床報告とは

臨床報告とは、一つ一つの病態をどのように分析し、診断を下し、そのもとに、どのような治療を施し、その経過を示し、どのような結果になったかという報告です。

様々な分野の臨床報告を残すことによって、後世の臨床家の手引き・参考としてほしいと願っています。

治療家であれば、どのように治療して良いかという悩みは、誰しも同じようなところに行きつきます。難しい疾患になる程、どうしたらよいのか分からないことも多く、悩みも多くなります。鍼灸が医学として発展するためには、臨床家や、これから臨床を目指す鍼灸師が、このような壁に当たった時、本当に参考になる手引きがほしいと思うのは誰しもです。

私は中医学弁証を学び、中国の大学院で学んでいる勉強を学ぶ機会を得ました。中国の臨床例の多さは、日本と比べるととてつもなく多くあり、その臨床例が私の成長に大きく繋がりました。残念ながら日本には、参考となる臨床報告がほとんどなされていないのが現状です。

患者様の協力を得て臨床報告をあげていきますので、後世の臨床家たちの参考となれば幸いです。

顎関節症症例 64歳 主婦 豊中市在住

顎関節症症例64歳、主婦 豊中市在住

主訴

○口を開けると顎が痛み、全開できない。ものを噛むと右顎が痛み、特に固いものが噛めない

随伴症状

katakori_woman○首肩の凝り
○腰が重だるい
○左股関節に痛みがある
○疲れやすく、夜になるとグッタリする。特に夏は、夏バテで元気が出ない

現病歴

 顎が去年の12月頃より、カクンカクンしていましたが、そのまま放置していました。1月に入って、口が段々開きにくくなり、口を開けると痛く、口を大きく開けることが出来なくなりました。またものを噛むと顎が痛むので、食事をするのがとても不便です。
右顎がとくに痛く、口を開けなくても、ジーンと重い感じです。

 首肩が凝りやすく、週1回近くの整骨院に通っています。普段から疲れやすく、夏は特にグッタリしてしまいます。元々体力がないので、夜は疲れていつも横になって寝ています。先天性股関節脱臼があり、左側の開脚がスムーズにいきません。腰が常に重だるいです。

現象

tongue out舌診:淡紅舌やや紅暗、苔全体少し厚めでやや黄、
舌下静脈の怒張著明
脈診:実・細・滑
首、肩背筋群、腰部及び殿筋群の筋緊張著明
咀嚼筋(閉口筋)の筋緊張著明

治療方針

初診による病態分析

舌診より、苔がやや厚めでやや黄は、湿熱症(ため池や田んぼのように体内に古い水分が溜まり、水分代謝が悪い状態)を示す。

舌下静脈の著明な怒張は、重度の血瘀(血液の流れが悪い)の状態を示す(たとえば高速道路の交通渋滞のようなもの)

脈診より、水分代謝が悪い実証タイプで、そのため血瘀の状態を助長しているという舌診の証しをここでも証明できる。

川以上、舌脈診より、身体が疲れやすくグッタリするのは想定できる。
しかし、血液や水分の不足で起こる虚症の体質ではなく、身体の中が湿気て熱しており、血流の流れが悪い状態を示している。

診断による治療方針

治療法則は、補うことではなく瀉する、すなわち促すことである。
体内の血液と水の流れをスムーズに促進することである。

そのために、
鍼灸治療では、体内のものの流れを促進させる働きを司っている肝の機能の停滞を回復させる
肝気を促し、さらに水分代謝を担う脾気を強めることで、体内水分の流れをスムーズにし、新陳代謝を促進する。

鍼灸治療で新陳代謝を促進し、常に疲れてグッタリした状態を改善させる。
血液の流れや水分代謝が良くなると免疫力が上がり虚脱感がなくなる。
根本的な体力が高まり、身体は自然に元気になる。元気になることで、血流がよくなり咀嚼筋の緊張も改善される。
部分は全体の影響を受ける。全体が良くなれば、部分も良くなる。
顎という部分も、身体全体をよくすることで画期的に回復が早まる

顎関節症の根本原因

顎関節症は、顎の激しい痛みを伴うため、顎という部分だけの病気のように見えるが、肉体疲労や精神疲労が積み重なって咀嚼筋の筋緊張が過剰になったものである。
なので、顎の痛みを早く取るために、全身の疲労回復や精神的緊張を取り除くことが何より大切である

筋緊張への対処

対処療法としては、首肩の凝り、腰部の緊張、更に股関節周りの筋緊張を取り除く。
顎関節は左の下顎枝が低いので、左側方にやや変異しており、穏やかに的確に矯正する。  
鍼で咀嚼筋(閉口筋)である咬筋、側頭筋、外側・内側翼突筋の緊張を丁寧にゆるめていく。
更に開口筋である前傾筋群をゆるめる。

治療経過

第14回目の治療

痛みの強さに変化はありますか?
痛みは軽減され、痛みを感じる場所が変わりました。
食事を噛むのは躊躇します。思い切って右側でかんでみますが、かみしめるとやはり痛みを感じます。
体調の変化はありますか
少し元気になってきたように思います。お通じが正しくなってきました。外反母趾が正しくなってきました。

第16回目の治療

痛みの強さに変化はありますか?
ずいぶんと軽減された感じはありますが、あと一歩というところの痛みがあります。朝の起きた時に痛みがあります。
体調の変化はありますか?
一日のルーティンをこなして、少し余力がある感じです。身体が軽い感じ。
本日一番取りくんでほしい治療は何ですか?
顎関節症を根本的に治したい

第17回目の治療

痛みの強さに変化はありますか?
徐々に軽くなっていますが、朝の時間だけ痛いです。寝ている間に、歯を食い縛っているようです。口を上下に動かすのは、随分楽になりましたが、左右に動かすのが、まだ痛みます。
体調の変化はありますか?
便通が良くなりました。一日動いても、少し余力があるようです。外反拇指が少し元にもどりました。

第48回目の治療

痛みの強さに変化はありますか?
顎が寒い日には違和感がありましたが、普段は大開口時の時の痛みも忘れているほどです。
体調の変化はありますか?
体力が持続するようになりました。一日中動いても、疲れず、体調がとても快調になりました。顎関節症の治療後、みんなに小顔になった、綺麗になったと言われます。
~院長の感想~
虚弱体質で、夜にはへこたれてぐったりとして横になる毎日でしたね。それが一日中動ける、また動いても疲れないお身体になりましたね。小顔というおまけがついてよかったです。初診時の舌脈診で、本来強いお身体である事が分かりましたので、絶対本来の健康なお身体に戻ってほしいと思い、その一心で治療を行いました。

さて、顎関節症の治療をすると、みなさん小顔になります。美容鍼灸は顎関節症の治療から生まれたのです。治療の一番の目的を、虚弱体質という体質を本来の健康な身体に戻す事におきました。

50回近く、よく頑張って通っていただきました。顎関節症もすっかり改善されましたが、本来の御健康な身体を取り戻されました。顎関節症の治療は対処療法ではなく、身体そのものを健康にすることで改善される事を改めて認識いたしました。

私見

 
_MG_1102顎関節症の患者様が、今日も来院されました。
来院されたのは、ご主人様とお子様が以前に訪れたご家族の方でした。

顎関節の症状は、口が段々大きく開けにくくなり、痛みで、ものが噛めなくなり、ご飯を食べるのも、不自由になります
病態が進行していくと、情けない気持ちというか、これからどうなるのかと、恐怖心が涌いてきます。

そこで早く治したいと思い、病院に行こうとします。
しかしいざ行こうと思うとどこの病院に行ったらいいのか、何科に行ったらいいのか、大概の方が迷われています。結局、歯科医や口腔外科を訪れ、マウスピースを作られてから来院される方が多いのです。

顎関節症を治すより、体質改善の方が大切

今回は顎関節症を治すというより、体質改善を主におきました。なぜなら、舌脈診で健康な状態が判断できましたが、本人のお身体は一日の家事や仕事でくたくたになり、夜は倒れ込んで寝てしまいます。

体質改善をしないと顎関節症は治らない

瘀血体質と痰湿体質を治す必要があります。本来元気なお身体なのに、とても虚弱な身体のようになっています。首、肩のこり、腰の筋疲労、全身の疲労も酷く、ここを治すことが顎関節治療より大切です。

体質改善ができてきました

顎関節症は治るのです。この体質を治すことこそが、大切であると考えます。16回目くらいからの治療で、体質が変わってきました。一日仕事をしても、余力ができ、元気が十分残るようになってきました。本来の体質をほぼ取り戻しました。

もう少しで体質改善ができ、顎関節症も治ります

17回目の治療を終えて、ゴールが目の前に見えてきました。

体質改善を主体に取りくみ、顎関節症も両方改善の見込みが見えました

当院の顎関節治療について

illust4238当院は顎関節という部分的な治療から全身治療を併用することにより、顎関節症の症状である痛みや、口が開かない、ものが噛めない状態を平均4~5回で改善できるようになりました。口の歪みや痛みが伴い音が鳴る症状も、平均10回ほどで改善できています。

激しい痛みも1回1回改善を実感して頂けるケースがほとんどです。
10年の歳月をかけて症例にあたり研究を積み重ねた結果、改善期間も大幅に改善されました。

※ただし、治療回数や治療期間が読みにくい症状は、顎に痛みがなく、口を開けると顎の部分に音が発生するという症状です。痛みがなく簡単なように思われますが、この状態は痛みがないのではなく、痛みが麻痺した状態のものであり、より進行したケースでそれ以上の回数や期間が必要です。

顎関節症を起こさないために、ご自身でも肉体過労や精神疲労を長く溜めないよう、それらをできるだけ早く取り除くように工夫しましょう。

顎関節症の改善は、体質の改善とほぼ併行します。今回あえて長くかかった例を掲載致しました。