患者様の病態分析

臨床報告とは

臨床報告とは、一つ一つの病態をどのように分析し、診断を下し、そのもとに、どのような治療を施し、その経過を示し、どのような結果になったかという報告です。

様々な分野の臨床報告を残すことによって、後世の臨床家の手引き・参考としてほしいと願っています。

治療家であれば、どのように治療して良いかという悩みは、誰しも同じようなところに行きつきます。難しい疾患になる程、どうしたらよいのか分からないことも多く、悩みも多くなります。鍼灸が医学として発展するためには、臨床家や、これから臨床を目指す鍼灸師が、このような壁に当たった時、本当に参考になる手引きがほしいと思うのは誰しもです。

私は中医学弁証を学び、中国の大学院で学んでいる勉強を学ぶ機会を得ました。中国の臨床例の多さは、日本と比べるととてつもなく多くあり、その臨床例が私の成長に大きく繋がりました。残念ながら日本には、参考となる臨床報告がほとんどなされていないのが現状です。

患者様の協力を得て臨床報告をあげていきますので、後世の臨床家たちの参考となれば幸いです。

[顎関節症] 女性 32歳
顎関節症で口が指2本分しか開かない症状が、7回の治療で改善。

主訴

顎関節症

    随伴症状

  • 肩こり
  • 腰痛
  • 緊張しやすい

現病歴

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去年の今頃から顎関節症が始まりました。口を開けるとガクッと痛いことが時々あります。

歯医者さんで顎関節症と診断され、マウスピースを口にはめる治療をして頂きました。マウスピースを付けても改善が見られず、徐々に悪化して行きました。
1ヶ月前から徐々に酷くなり、起床時、口が指2本分ほどしか開かなくなりました。

痛みは感じていないのですが、2週間前からは口が開かず、ものが口に入らなくなり、食事も困難になってきました。
普段から食い縛る緊張しやすい癖があります。このまま行くとどうなるのかととても心配になり、ネットで調べました。
普段から、よく肩が凝り、時々腰痛にも悩まされます。

池田・豊中・十三辺りなら車で行けると思い、地区を絞っていくつか顎関節の治療をされている所を探しましたが、どれもピンと来ず、鍼に興味があったため、鍼治療のあるところを探して、ホームページで当院を見つけました。
中医学に興味があったのと、ホームページの記載内容に信頼を持てたため、ここに決めました。

現象

現代医学的な方法による病態の把握と、中医学基礎理論を用いる中医学弁証による全身状態の把握

現代医学的な把握

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  • 口の開口
  • 指2本弱がやっと開く状態。
    口を大きく開けるとガクンと大きな音がするが、口を大きく開けられないので、音はなし。

  • 痛みについて
  • 開口時も閉口時も痛みはない。

  • 咀嚼筋(閉口筋)について
  • 押圧すると鋭い痛みがあり
    咬筋、内側外側翼突筋、側頭筋に強い筋緊張を認める

  • 頸部、肩背部、上肢帯筋、肩甲患部の筋群、腰部の筋群について
  • 胸鎖乳突筋、斜角筋群、板状筋、僧帽筋、菱形筋、上肢帯筋および脊柱起立筋、腰部筋群とくに右側および臀筋群の著明な筋緊張を認める。

中医学による病態の把握
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  • 舌診
  • ・淡紅舌、白苔が舌全体に広がってやや厚い。
    体内の水分の代謝が悪くなって、体内に古い水分が溜まっていることを示す。
    ・舌下静脈の怒張あり。
    体内の血液の流れが、全体的に滞っていることを示す。そのため、肩や首、顎の筋肉(咀嚼筋)、腰の筋肉など筋緊張の強いところは血液の流れがより渋滞する。

  • 臓腑弁証
  • ・肝欝気滞
    普段から緊張しやすい状態は、肝の経絡に影響し、気・血・水の流れを阻害する。
    肝は必要な所に血液を分配する働きをしており、肝気が鬱滞すると脳や筋肉の必要な所に十分な血液を分配できなくなる。
    そのため筋肉の働きや動きが悪くなる。
    脳に影響すると、血管が細く緊張し不安感や抑圧感をもたらす。

  • 気血津液弁証
  • ・気滞
    気の流れが滞り、緊張しやすい。気の鬱滞は血に影響して、血液の流れが悪くなっている。
    ・瘀血
    血液の流れが悪くなり、血液が汚れている状態。
    ・痰湿
    体内水分の代謝が悪くなり、古い水分が停滞している。

方解

~中医学理論を用い、中医学弁証を行い、治療方法を確定する~

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普段から緊張しやすく、肝気が鬱滞しやすい。
肝気の鬱滞が全身の気・血・水の流れを阻害する。
気の流れの滞りは、血に影響し血液の流れを低下させる。中医学では、これを気滞血瘀という。
また水に影響すると、体内水分の代謝が悪くなり身体が重だるくなる。脳に影響すると、不安や緊張をもたらし、脳の血管は収縮する。顔の筋肉(表情筋)も緊張し、筋の働きが低下する。

治療方針

~中医学弁証論治による治療~
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肝の経絡すなわち肝気の鬱滞を取り除くと、気・血・水の流れは改善する。同時に不安や緊張感がやわらぐ。
全身の血液や水分の流れが良くなるので、身体の一部分の硬くしている筋肉や凝りを和らげる

不安や緊張を改善させることにより、100以上ある顔の表情筋の働きが良くなり、咀嚼筋の緊張を改善させる。

肝気の鬱滞を取り除く治療法則を疏肝理気と言う。
主な経穴は、太衝、合谷、内関である。

このツボは、肝気の鬱滞を取り除き、肝気の流れを良くし、上記の全身症状を改善させる特別な経穴であり、三穴を配穴することにより効果を発揮する。
さらに足三里と豊隆、三陰交に鍼を刺入し置針し、効果を増強させる。
足三里は気を巡らす、豊隆は水を代謝させる、三陰交は気・血・水を巡らせ肝気の鬱滞を取り除く、それぞれ名穴である

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心身のコンディションを改善させ、自然回復力を高める。顎関節症は全身の精神疲労や肉体疲労を取り除くことが一番大切な治療である。
部分治療では、なかなか改善できない。顎の緊張の原因は、全身の疲労であるからだ。顔だけ、顎の筋肉だけが緊張する人はいない

~現代医学の知識を用いての鍼灸治療~

顎の筋肉(咀嚼筋)の緊張を和らげるためには、首・肩・背中・腰の筋緊張を取り除くことが大切である。
全身の筋肉の緊張が改善すれば、顎の筋肉(咀嚼筋)の緊張も自然に緩む。

胸鎖乳突筋・斜角筋群・僧帽筋・菱形筋などの肩背筋群や上肢帯筋・脊柱起立筋・腰部筋群・臀筋群を一つ一つ丁寧に鍼灸治療で緊張をほぐしてゆく。そのことで全身の疲労が改善される。

全身の治療を施してから、初めて顎の筋肉(咀嚼筋)を直接鍼を用いて緩めて行く。
咀嚼筋は口を閉じる、すなわち噛んだりかみ砕いたり、ものを咀嚼する筋肉なので、筋肉の緊張は強烈である。

~鍼の刺入には高度な技術が必要である~

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くり返し鍼で治療し、何度も何度も筋肉の硬結に対して鍼を刺入し緩める必要がある。
筋肉が緩むのを指頭感覚で感じながら、丁寧に手技を施す。鍼をツボに刺入すれば効くというものではない。

的確な深さと角度、強さが大切で、筋肉の硬結を見つけたら、時計の振り子を手で押して戻すように、硬結を突き抜けても、離れてもいけない。

鍼の刺入には高度な技術が必要である。

治療経過

~患者様のお声に基づく治療経過の報告~

初回の治療

初回の治療後に顎の緊張が取れているのが分かりました。

2回目の治療

2回目には食べられなかったお寿司が食べられるようになりました。

その後

5回ほど通いました。
痛みも取れ、大きなアクビもできるようになりましたし、治らないと言われた顎関節症が、音も鳴ることもなく、改善しました。
鍼治療のお蔭で、顔のむくみも取れ、肌が綺麗になりました。

10月25日、上記症状による治療を終了した。
以後、一ヶ月ごとに身体のメンテをして、ベストコンディションを保つようにした。

11月29日、身体のメンテのために来院された。
顎関節の痛みが全くなくなっていたので、顔の鍼は美容のための鍼に切り替えた。
腰・肩のメンテをし、中医学弁証により五臓六腑の生理機能の調整と気・血・水の流れを改善させる鍼灸治療を行った。
顔のむくみが取れて、筋肉が引き締まり小顔になったと喜んで頂いた。

患者様へのアドバイス

精神疲労や肉体疲労がピークになる前に、コンディションの改善に来て、ベストコンディションで仕事に臨んでください。

私見

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顎関節症は、部分的な治療では治りにくいです。
マウスピースだけ、顔の鍼だけ、顔のマッサージだけ、顔の整体や矯正だけでは、改善できないと言っても過言ではないです。

顎関節症は咀嚼筋が緊張し、口が開かなくなり
激しい痛みがあり、食事をするのも困難になる

数ヵ月前に、中学2年生の男性が、ゼリー状のものだけで水も飲めなくなり、歯科医に行って口腔外科に行っても改善されず、母親が心配して当院を訪れた。
結局、4回の鍼治療で治癒したが、勉強にスポーツに一生懸命の少年で、首・肩の筋肉がガチガチに凝り、全身の疲労がピークになっていた。勉強も頑張っていたので、精神的な疲労も大きかった。

鍼灸治療で全身の気・血・水の流れを改善させ、肉体疲労と精神疲労の両方を取り除くことを最も重要な治療方針とした。
首や肩背筋群の筋肉も丁寧にほぐした。最後に顎の筋肉(咀嚼筋)の緊張を改善させる鍼治療を行った。

若い身体は1回毎の治療でメキメキ改善し、3回の治療で口は全開し、肉体疲労や精神疲労も改善したということで、4回の鍼治療で治療を終了した。
食事もまったく困難になっていたので、短期間で治ってくれて、本当に良かったと思い胸をなで下ろした。
勉強やスポーツは大切ですが、やり過ぎには気を付けて、勇気をもって休息も取って、身体を休めてほしい。