患者様の病態分析

臨床報告とは

臨床報告とは、一つ一つの病態をどのように分析し、診断を下し、そのもとに、どのような治療を施し、その経過を示し、どのような結果になったかという報告です。

様々な分野の臨床報告を残すことによって、後世の臨床家の手引き・参考としてほしいと願っています。

治療家であれば、どのように治療して良いかという悩みは、誰しも同じようなところに行きつきます。難しい疾患になる程、どうしたらよいのか分からないことも多く、悩みも多くなります。鍼灸が医学として発展するためには、臨床家や、これから臨床を目指す鍼灸師が、このような壁に当たった時、本当に参考になる手引きがほしいと思うのは誰しもです。

私は中医学弁証を学び、中国の大学院で学んでいる勉強を学ぶ機会を得ました。中国の臨床例の多さは、日本と比べるととてつもなく多くあり、その臨床例が私の成長に大きく繋がりました。残念ながら日本には、参考となる臨床報告がほとんどなされていないのが現状です。

患者様の協力を得て臨床報告をあげていきますので、後世の臨床家たちの参考となれば幸いです。

左顎が痛く左右の耳がジンジンしたり痛む。 M.Nさん 50歳 女性

左顎が痛く左右の耳がジンジンしたり痛む。
50歳 女性  M.Nさん

主訴

〇左の顎が痛い

左耳について

〇左耳のすぐ下の奥が痛く、ジンジンする。時々バーンとはじける

右耳について

〇自分の声を普通に発しているが、耳の中でびしゃ、びしゃとする音が聞こえる。更にジンジンする。
〇子供の甲高い声を聞くと、耳が痛む
〇人の声がロボットのような機械化された音のように聞こえる

随伴症状

  • 首・肩が凝る
  • 冷える
  • 疲れやすい

現病歴

gakukansetsu5、6年前から、食事をしているとき、カックンカックンと顎から音が出るようになりました。痛みはないので放っておきました。昨年春に突発性難聴を患い、突然耳が聞こえなくなりました。耳鼻科に行って薬を服用したところ、順調に回復し、耳が普通に聞こえるようになりました。突発性難聴が治ったと思ったらすぐその後、昨年の5月より、左顎が痛くなりました。

症状について

何か動作をしているときや口を大きく開けても、ものを噛んだりしても痛くありません。何もせず、ボーッとしている時が一番痛みます。耳と顎の辺りでジャビジャビという音がして、時々パーンと跳ねるような音が聞こえます。

左耳について

左顎の奥の方がジンジンして、時々バーンと跳ねる感じです。

右耳について

右耳は低くジーという音がしています。自分の声は普通に発していますが、他人の声がロボットの声みたいに機械化された音に聞こえます。とくに子供の声で耳が痛くなります。
子供の甲高いキーンという声がとても耳に響くのです。

口腔外科、耳鼻科、大病院に行きました

ずっと続いたので、口腔外科、耳鼻科に行きました。大病院にも行きました。

診断結果

647948そこでレントゲンを撮って、顎関節の軟骨が少しずれていると言われました。あまり大したことはないが、痛いのは顎関節症のためかなと言われました。

処置

取りあえずマウスピースを作り、装着するように言われました。

整体にも通いました

298208その後、整体にも週に2回、4ヶ月通いました。かなり高額のお金を支払ったにもかかわらず、痛みは全く改善されておりません。治らないのではないかと不安になって、ネットで探し回りやっと当院を探し当てました。

来院される前にお電話を頂きました

患者様のお電話の内容

428893お電話で、キーポイントとなる問診だけさせて頂きました。
痛いのは左の顎の関節で、ジャビジャビという音がして、時々、バーンとはじける、ジンジン痛いということでした。口を大きく開けても、口の中に物を入れて噛んでも痛くないということでした。大きな病院で診てもらっても、高額のお金を払って整体に4ヶ月も通ったが治りませんでした。

こんなに健康なのに何故治らないのでしょうか?

悪いのは顔から上だけで、頭から下の身体の状態はとても元気なのに、症状がなかなか回復しません。こんなに健康な状態なのに何故、治らないのでしょうか?

私の対応

顎関節症では、口を大きく開けたり、口の中に物を入れて噛むと痛むのが一般的な症状です。
ボンヤリしているときが一番痛く、口を大きく開けても、口の中に物を入れても痛くないのは、顎関節の症状ではありません。
顎関節の症状を改善させた症例を多数持っている私が診させて頂かないといけないと思いました。

原因を明らかにしないと病気は治せない

何故なら、原因を明らかにしないと病気を治せないからです。
患者様の不安を取り除いてあげることが第一に必要なことのです。しかし一つ反論しました。

私の健康に対する答え

428752患者様は健康で元気なのに何故治らないのかと言われました。私は次のように答えました。
部分の痛みは身体全体の状態を示しています。部分は全体の影響を常に受けているからです。一番弱い所に痛みが現れるのです。部分の痛みのように見えますが、全身の状態の失調の現れでもあります。

川を想像して下さい。川の流れが良ければ、川の水は澄んでいます。川の水が濁っているのは、全体の流れが悪いからです。全身の状態が局所に反映されるのです。局所の状態は全身の状態の反映でもあります。
痛みがどうしておこっているのかきちんと分析して、根本原因に対しての治療が必要です。

不安や疑いがある場合

不安と疑いが交叉しているようです。このような状態では、まずは病気への正しい理解が必要です。どのようにすれば治るのかを知ることが大切です。そして、患者様が本来もつ自然回復能力を高めてゆくことが肝要です。

私のモットーです

疾病の根本原因を見つけ出し、対処的ではなく根本改善するのが私のモットーです。不安や疑いの解消のためにも、私が診なければならないと思いました。

現象

左耳について

  • 左耳のすぐ下、および1cm下の奥が痛く、ジンジンする。時々バーンとはじける
  • 左顎の耳の1cm程を押圧すると痛む

右耳について

ご本人の感じている症状

  • 自分の声を普通に発しているが、耳の中でじゃびじゃびとする音が聞こえる。更にジンジンする。
  • 子供の甲高い声を聞くと、耳が痛む
  • 人の声がロボットのような機械化された音のように聞こえる
  • 症病分析

    左耳について

    271344痛む場所は左耳のすぐ下及び1cm下である。ここは頸椎の筋肉であり、顎関節とは関係がない。耳の奥が痛いのはこの首のこりのためである。本人に首・肩がこっているという自覚症状はないが、押さえたら痛いと言う。これはこっていないのではなく、こっていることを感じられないのである。いわゆる麻痺症状である。こりも高じると麻痺症状を起こす。触診でも首・肩・肩背部の著しい緊張を認める。特に首の緊張が著しく、肩へと続いている。

    顎関節症について

    512976顎が痛いと思っている症状の本体は、首・肩のこりである。顎関節症の痛みでは無い。顎関節症の疑いが無いかと言えば、軽度の顎関節症の発症もあると言える。耳の前1cmのあたりが痛いのは、顎関節の軽い炎症である。しかし、急性の顎関節症であれば、口を開ければ痛いし、ものを噛めば痛む。
    当クライアントは口を大きく開けても、もの噛んでも痛みはない。耳や顎がジーンと痛むのは、首のこりが高じたものである。しかし、5、6年前から食事をすると、顎関節にカクンカクンという音が発生している。ずっと痛みがなかったのは、麻痺症状である。顎関節に関しても治療が必要だが、現在の痛みは顎関節から発しているものではない。

    右耳について

    641434子供の甲高い声で耳が痛むと言う。人の声がロボットのような機械的に聞こえたりする。耳管狭窄症・開放症の症状は耳閉感や難聴、自分の声が響いて聞こえるなどである。耳の奥に何かつまっている感じや耳鳴りも起こりえる。自分の声が大きく響くような感覚、呼吸の音がゴウゴウと聞こえるなどである。

    私の判断

    耳管開放症や狭窄症にピッタリあてはまる症状はない。突発性難聴の後遺症を頭に入れる必要はある。しかし、本人の自覚症状がはっきりしないので、とにかく身体全体のコンディションをよくすることに努める。舌脈診より、瘀血症及び痰湿症である。血液の流れが悪く、体内水分の代謝が滞り、古い水が体内に残存している。

    右耳については全身治療を施す中で
    診断と治療法を確定してゆく

    これらが耳という器官に影響して、単に違和感を感じているだけかもしれない。今後、治療を重ねる上で様々な症状が改善していく。そうすることで残存する症状より根本的な原因を導き出す事ができる。

    治療方針

    • 左の首のこりを奥まで取り除く
    • 肩のこりを改善させる
    • 右についても同様である
    • 全身の血流を改善し、血瘀の状態を解消する
    • 水の代謝を促進し、新陳代謝を改善させる

    234164以上で、顎の痛みを解消させる。並行して顎関節の治療を施す。咀嚼筋の緊張を取り除き、顎の動きを改善させる。本人が首・肩がこるという自覚症状が無く、健康だと思っているが、麻痺しているだけで健康とは言えないことを理解させる。突発性難聴も顎関節症も真面目で一生懸命働く人に多い。首や肩をこらし、ストレスをものともせず頑張る人に多い。本当の意味での健康とは、悪いところがあったらすぐ痛みを感じたり、様々な症状がでるが、直ぐ治るのは健康である。こりを感じないのは麻痺症状であり、痛みより一歩進んだ症状である

    治療経過

    5回目の治療後の身体の状態をお伺いしました。

    痛みの強さに変化はありますか?
    「痛みが少なくなってきた。」
    体調の変化はありますか?
    「体調がだいぶ良くなり、動きが軽くなってきた。」
    本日一番取りくんでほしい治療は何ですか?
    「体調万全で毎日仕事をしたいので、完治した後、予防し再発しないようにしたい。」
    その他ご希望があれば、自由にお書き下さい。
    「完治するまで通院し、その後は月一回くらいで体調を維持していきたい。」
    右の耳から人の声がロボットのように聞こえるの如何ですか?
    「右の機械的な音はなくなり、左右の感覚の差はなくなり、不快感が改善し、不安がなくなった。」

    6回目の治療

    痛みは如何ですか?
    「痛みがとてもマシになってきた。」
    体調の変化はありますか?
    「疲れはあるが、耳や顎の痛みが少しずつよくなると、体調も少しずつ良くなっている。」

    私見

    illust4238一般の病院に行って治らないのは、無理もない。首や肩のこりが高じれば、またストレスが重なれば、顎関節症のような症状も起こる。しかし、本体は首や肩のこり、及びストレスである。本人がそれを自覚し、改善することが一番大切なことである。首、肩のこりを治し、ストレス解消の鍼をうつことで、気血水の流れが良くなり、自律神経のバランスがとれ、心がより安定することで免疫力が高まり、自然回復力が高まり、回復力を早めていく。
    とことん検査をして、やっと病名を確定しても、現代医学でも確かな治療法が確立されていないケースも多い。
    右の耳から人の声がロボットのような機械的な音に聞こえるのも消えた。病名が確定できなくてもこのように治癒力を高めていけば、それだけで改善できることもよくある。
    私の質問でご希望があればなんでも言って下さいの中に、次のようなご希望がありました。
    「とても鍼は効くのだが経済的に厳しい。月1回通院することで、毎日元気に過ごせたらと思う。」

    私の回答

    bensyou鍼は良くなるまで一週間に一度続けることが必要です。
    最初の緊急時は週2回ほど行います。大概、4、5回で改善の兆しが見えます。見えたら週一回で改善をはかり、さらに症状がすべて改善すれば2週間に一度にし、最終的に月1回の治療で日常の気になる症状を取りながら、ベストコンディションを維持して行きます。

    日々、元気で仕事や家事に取りくみ、65歳まで元気に働きたいということでした。まさに、鍼灸の治療は自然治癒力を高め、日常の疾病、そして未来の疾病を未病で治し、ベストコンディションを維持してゆくことこそが、東洋医学の理念であり、醍醐味です。
    将来の健康は、悪くなってから、いくらお金を出してもどんなに健康を願っても改善できないことがあります。
    健康で長生きするためには、また生きている間、元気でいたいというのは人間の最も大きな欲望です。
    そのためには今から準備がいるのです。
    病気になってからでは遅いのです。みなさん、将来の健康を喜びを幸せを、今、お金で買っておきませんか。先行投資が大切です。
    何に投資するよりも価値ある先行投資だと私は考えています