患者様の病態分析

臨床報告とは

臨床報告とは、一つ一つの病態をどのように分析し、診断を下し、そのもとに、どのような治療を施し、その経過を示し、どのような結果になったかという報告です。

様々な分野の臨床報告を残すことによって、後世の臨床家の手引き・参考としてほしいと願っています。

治療家であれば、どのように治療して良いかという悩みは、誰しも同じようなところに行きつきます。難しい疾患になる程、どうしたらよいのか分からないことも多く、悩みも多くなります。鍼灸が医学として発展するためには、臨床家や、これから臨床を目指す鍼灸師が、このような壁に当たった時、本当に参考になる手引きがほしいと思うのは誰しもです。

私は中医学弁証を学び、中国の大学院で学んでいる勉強を学ぶ機会を得ました。中国の臨床例の多さは、日本と比べるととてつもなく多くあり、その臨床例が私の成長に大きく繋がりました。残念ながら日本には、参考となる臨床報告がほとんどなされていないのが現状です。

患者様の協力を得て臨床報告をあげていきますので、後世の臨床家たちの参考となれば幸いです。

顎関節症 – 女性 H.M.さん 年齢62歳

患者様
大阪府豊中市在住 女性 H.M.さん 年齢62歳

主訴

〇15年来のめまい
〇10年間マウスピースを装着してもなかなか改善しない顎関節の歪み

随伴症状

〇首、肩、背中のひどい凝り
〇不安、緊張感

現病歴

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48歳のとき、目眩が起こりました。寝返りをうったら、底に沈みそうな感じになり、歩いたらフラフラして戻します。最初、病院で点滴注射を打ってもらい薬をもらうと4,5時間で治っていました。その後一年に一度くらい定期的に起こっていましたが、薬を飲んだら治っていました。

五年くらい経過して、再び目眩が起こりました。薬をやめると目眩が起こり、一ヶ月に3回、治ったと思ったらまた目眩が起こるのが続き、薬と点滴がやめられなくなりました。目眩が起こると吐き気を伴い、水も飲めなくなり、気分が悪くなって起きられなくなります。我慢していると症状が酷くなり、救急車で何度か病院に運ばれました。

ほとほと目眩で困っていたころ、目眩を顎関節の歪みを治して治すという歯科医師の事を知りました。それは、53歳のときでした。マウスピースのようなバイオブレトというプレートを口に挟んで顎関節の歪みを治すというものでした。上下に自分の口に合わせたマウスピースのようなものを作り、上下の歯に挟み、顎関節を調節するというものでした。
不思議なことにその後10年間、プレートをつけていると本当に目眩が起こらなくなりました。このプレートの治療に出会うまでに、これまで大学病院にも行きましたが、顎関節には手術をするような異常がないと言われました。処置は何もなく、また目眩と顎関節の歪みには何も関係がないと言われ、何もしてくれませんでした。

大学病院で目眩と顎関節の歪みは関係がないと言われても、他のどの病院に行っても治らなかったのに、これをしたら治るので、私は信じざるを得ません。しかしこのままでは一生、一日中プレートをつけていなければならないのも事実です。

一年に一度調節に行かなければならないし、10年で作り替えなければなりません。金銭的にも、60万円以上する高価なもので、大変です。それにマウスピースをつけていると口が大きく膨らみ、完全に口を閉じることができません。いつも口を開けて息をしているので喉に負担がかかります。

このままではプレートが無ければ一生治ることがないので、根本的に治してくれるところを探しておりました。ネットで当院の事を知り、根本的に改善ができるような気がして来院致しました。

※17年前に耳管開放症と言われ、毎年春頃耳鳴りが起こります。薬と耳に空気を通してもらって、1,2ヶ月通院すれば治っておりました。

主人に気を遣い、外出しにくいですが、ストレスが溜まっていることをあまり気づかない方です。

現象

①首、肩、背中、腰の筋肉のひどい筋緊張を認める。(特に左首、肩の凝り著明)
  →顎の歪み、頸椎の歪みをもたらしている
②脈が速い、不安や精神的な緊張感が強い
  →本人は気づいていない
  →だからストレスが溜まってもきづかない、目眩はストレスがピークのときに起きる。
③緊張タイプ
④足関節内反
→下半身の力が抜ける、上半身の力が入る
⑤顎関節について
顎関節が右側から左側に傾斜している。(右下顎枝と左下顎枝を比べると右が下がっている。)

舌診、脈診について
〇脈診 脈が96毎分 実数脈
〇舌診 紅舌 舌下静脈怒張 舌尖紅

原因の分析

bensyou首、肩、背中の強烈な凝りが顎の歪みをもたらしている。強烈な凝りによって頸椎4,3,2番が右後方回旋している。足関節内反も、下半身の力が抜け、上半身に力が入る原因である。脈が96毎分で、実数脈、不安や緊張、なんらかのストレスを激しく受けている。緊張タイプなのに、精神ストレスがたまっても気づかないことが原因で、精神的疲労、肉体的疲労がピークになったときに、激しい目眩を引き起こしている。

本件の目眩のメカニズムは上記のようなものと考える。

更に私の考えを述べると、以下のようになる。

顎関節の歪みと目眩とは直接関係がないことは確かである。
しかし、顎関節の歪みを治すことは、目眩の改善に繋がる。なぜなら顎関節の歪みは首、肩、背中の凝りや頸椎の歪みを治さないと治らないからである。

逆説的に言えば、首や肩の緊張さらに不安や緊張ストレスが溜まって、精神的、肉体的疲労がピークになったとき目眩が起こる。マウスピースで顎関節を整える事で頸椎の歪みや筋緊張が幾ばくか緩和されたのかもしれない。それで患者様はマウスピースをつけたら目眩が止まると信じたのであろうと推測される。

しかし、これまで10年に渡り患者様が信じた顎関節の治療法はマウスピースで左右の顎関節の高さを合わせるだけのものであるので、顎関節の歪みは何も改善されていないのである。
顎関節の調整は、口の開閉筋および首、肩、背中の筋肉および頸椎のねじれを改善しながら顎関節の矯正を行うことで、ある程度の歪みの範囲内で改善可能である。

治療方針

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全身の疲労を取るために、鍼灸治療を施す。
①五臓六腑の生理機能の調整と、気血水の流れを整えることで自然回復力を高め精神的ストレスを緩和させる。
②首、肩、背中、腰の筋緊張を取り除き、頸椎の捻れを改善する。緊張を取り除くことでリラックス感が得られる。
③顎関節を矯正し、慢性の肩こりを改善させる。
④全身の肉体的疲労と精神的疲労を取り除けば必ず目眩が改善されることを常に説明し、また目眩の根本的な改善ができることを説明し希望と安心感を与える。
⑤顎関節は矯正可能な範囲で改善されるので毎回矯正を続けていき、これまでより根本的、積極的な改善がなされることを説明し期待と安心感を与える。
⑥鍼灸治療は中医学弁証により患者の現在の総合的な病態を分析して証を立てて行う。

経過

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私の分析した通り、肉体的、精神的疲労を取り除くと共に、首や肩、背中、腰の筋緊張がとれていった。身体が楽になると脈も整い、心の緊張も改善された。精神的なストレスを取り除く治療を併行して行った結果、精神的にも元気になり、患者様自身がこのまま治って行くような気がするという期待感を口から漏らすようになった。

19回の治療、期間は4ヶ月足らずの治療で目眩及び顎関節の矯正は完全に改善された。患者様自らマウスピースを外し、薬も服用しなくなった。今後はこの健康な体調を維持して再び目眩が起こらないように2週間に1度程度の鍼灸治療と矯正を施す。

私の考え方

あらゆる疾病の改善は、本来人間が生まれながらにして持つ自然回復能力を最大限高めることが一番大切である。自然回復力(免疫力)を低下させるものは、精神的なストレスや肉体疲労である。

それらは姿勢の歪みや筋緊張、呼吸の浅い深い、早い遅い、リズムの乱れなどに現れる。心の中で思っている感情も絶えず身体に影響している。特に、我慢はできるけれど持続的な不安や緊張、悲しみ、恐れ、腹立ちは身体を害する。

腹が立つ、悲しい、こわいなどの感情は消化しないとそのままストレスとして残存する。マイナスの感情は使わないと減らない。プラスの感情は使うほど増える。だからストレスをためないコツはマイナスの感情を上手に使うことである。

私が心の治療も専門にしているのは、ストレスが心や身体に及ぼす影響をあまりにも軽視されているからだ。私はどんな疾病の改善にもストレスが身体に及ぼす影響を必ず分析して、丁寧に患者様に説明し、私と患者様が一体になって共に治して行くように努めている。当院でなかなか治らない疾病が改善がされるのも、早いのもそのためである。